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トイレ環境向上への取り組みの先駆者『ラスカ』トップに聞く
魅力あるトイレの秘訣とトイレメンテナンス会議

2011/6/23    取材:湘南ステーションビル株式会社 代表取締役社長 吉田宏美氏

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湘南ステーションビル株式会社
湘南ステーションビル『ラスカ』小田原店

『トイレメンテナンス会議』というものをご存知だろうか。これはJR東海道線沿線の駅ビル『ラスカ』を運営する湘南ステーションビルが行っている、トイレの環境向上からCS(顧客満足度)を向上させるための取り組みである。18年前に始まった一企業の取り組みであるが、現在では全国の商業施設をはじめとして、多くの企業から大変な注目を集めている。

1992年以来、開催回数は59回を数え、同社内社長、店長、営業部、開発企画部、管理部、CS推進室のみならず清掃会社やビル管理会社、トイレの設計事務所なども取り込んで行われるに至っている。このような先進的な取り組みを続ける同社トップ、吉田宏美氏に、魅力あるトイレの秘訣とトイレメンテナンス会議について聞く。



―――まず、湘南ステーションビルの概要を教えてください。
吉田氏:現在、湘南ステーションビルでは『ラスカ』という3つの駅ビルを運営しています。それぞれ、茅ヶ崎、平塚、小田原というJR東海道線沿線に立地し、湘南地域の商業施設としてのブランドを形成しています。テナント数は3カ店合計で延べ387あり、一日約8万5千人の方に利用いただいています。

湘南ステーションビル株式会社

―――JR沿線にはさまざまな駅ビルのブランドがありますが、『ラスカ』ブランドの強み・特徴は何ですか。
吉田氏:やはり、地域密着であること。『ラスカ』を展開する地域は、都心のターミナルではないので、ご利用いただくお客様の層も湘南地域のお客様が大半を占めます。ですから、特に地元である湘南地域のお客様にご満足いただけるよう、日々の運営に努めています。

また、ほかの商業施設の一歩先を行くサービスの提供を目指しています。例えばトイレ改善プロジェクト『ワンダフルクラブプロジェクト』の活動です。ワンダフルクラブ(WC)とは、トイレを意味するウォータークローゼットの頭文字をとり、ワンダフル「すばらしい」「素敵な」ものを創造するクラブ、という意味を込めて名付けられました。店内トイレの心地よさを維持するための社内プロジェクトチームで、若手女性社員だけで組織されています。このワンダフルクラブによって、トイレの巡回、環境維持、若手清掃スタッフのサポート、設備設置や改修・修繕時の提案などが行われています。各店には、個性あるトイレを配していますが、これらも、ワンダフルクラブが提案したものです。これらの取り組みはラスカをご利用いただくお客様のみならず、同業他社様からも注目をいただいております。

―――この『ワンダフルクラブ』の取り組みは、スタートした当時、大変先進的なものであったと思います。この取り組みがスタートしたきっかけを教えてください。
吉田氏:この取り組みのスタートは1992年に遡ります。当時、ラスカ平塚店の全館リニューアルを行う計画がありました。当時の社長が「トイレを目玉にしたリニューアルをし、日本一のトイレを造ろう」と考えました。それまで、トイレに対してはお客様からの改善要望も多くありましたが、これを解消し、一歩先行く取り組みを行うために考え出されたコンセプトが『女性視点』でした。

湘南ステーションビル株式会社

この『女性視点』を実現するため、若手女性社員からなるワンダフルクラブが結成されました。リニューアルでトイレをどうするか、他の商業施設の調査などを行い、当時の商業施設としてはめずらしいデザインのトイレ、女性会員制のパウダールームや、お子様にトイレを嫌がらず楽しんでいただくことを目的とした「ファミリートイレ」などが生まれました。

今でこそ一般的なトイレもありますが、まだまだトイレ美化が浸透していなかった時代に、このようなアイデアが生まれたのはワンダフルクラブによるところが大きいと思います。

―――現在、ワンダフルクラブでは、普段どのような活動を行っているのでしょうか。
吉田氏:実はワンダフルクラブのメンバーはこの活動だけに専念しているのではなく、日常は営業部やCS推進室など、それぞれの部署の仕事をしています。これら自分の部署の外でワンダフルクラブのプロジェクトを行っています。

活動の中では、定期的なトイレのチェック、お客様のトイレ利用分析、環境維持・向上のための提案まで、トイレに関するさまざまな取り組みを行っています。例えばトイレの利用分析では、各店で500名のお客様にご協力をいただき、1994年以来毎年アンケートを実施しています。この結果を分析し新たなトイレの改装・改善に役立てています。

またラスカでは4か月に一度『トイレメンテナンス会議』という、トイレ環境の維持・向上のための現場目線の会議を行っています。トイレ環境を心地よい状態に保つには、何より現場スタッフの目線が重要です。この会議では会社の枠を超えて、清掃会社の清掃スタッフやビル管理会社の担当者、トイレの設計事務所も交え、ワンダフルクラブとの意見交換を行います。この会議も運営はワンダフルクラブが行います。

湘南ステーションビル株式会社

―――『トイレメンテナンス会議』、これも大変ユニークな会議ですね。このトイレメンテナンス会議ではどのようなことを行っているのでしょうか。この取り組みもスタートのきっかけが気になります。
吉田氏:先ほど、平塚店のトイレリニューアルのお話を紹介しましたが、リニューアルをしただけではトイレのきれいさを保つことはできませんでした。完成直後から老朽化は始まります。その老朽化をどのように食い止めるかを話し合う会議としてメンテナンス会議は始まりました。

ただ、ラスカを運営する当社は清掃作業を清掃会社に委託しています。また、清掃ではカバーしきれない器具や備品の破損などはビル管理会社にお手伝いいただかなくてはなりません。このような中で、現場スタッフからの意見が大変大きな意味を持つことを実感し、トイレメンテナンス会議がスタートしました。

トイレメンテナンス会議のコンセプトは何と言っても現場主義。現場に携わる者同士で意見を出し合うため、運営会社だけでは思いつかないようなアイデアや施策が次々に出てきています。これが現在までラスカのトイレを高く評価いただけている秘訣と考えています。

湘南ステーションビル株式会社

―――社長自身、トイレのきれいさを保つために大切なこと、トイレに対してこだわられていることはありますか。
吉田氏:トイレのもっとも難しいところは、やはり男性と女性で考え方や求めるものが全く異なるというところです。男性に比べ女性の方が求めるニーズも多岐にわたります。ただ、私自身男性ですので、女性のお客様が真に何を求めているのかは実感することができません。そこで大切になるのが『女性視点』の共有です。ワンダフルクラブが女性によって組織されているのも、このような理由があります。ですから、常に『女性視点』を大切にし、社内での共有を図り、また、若手女性社員による意見・提案が行いやすい組織づくりに努めています。

―――これら『ラスカ』の現在の取り組みは非常に注目を集めていますが、反響はいかがですか。
吉田氏:おかげさまで、このラスカの取り組みに興味を持っていただき、これまで多数の会社様に見学いただいています。また、ご利用いただくお客様からも、直接トイレに対する評価をいただくことが多くなっています。やはり、このような評価をいただけることは、何よりありがたいことと思っています。

―――トイレに対する前向きな取り組みが、企業、自治体を問わず広がっています。このことに対し、どのようにお考えですか。
吉田氏:トイレをきれいにすることでお客様からの印象が大きく変わります。商業施設では集客に直結にする部分もあり、昔からこのような視点はあったと思いますが、現在では鉄道会社など、インフラ系のサービス業までもがトイレ美化に取り組んでいます。この流れは大変すばらしいことで、今後さらに進んでいくと思います。

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このような流れの中で、今後は他社の取り組みと連携を図っていき、トイレを持つ全国の企業で共有することが大切だと考えています。

このような考えのもと、『全国トイレ連絡会議』という会議を行っています。その名の通り、出席各社のトイレへの取り組みについて意見交換し、トイレの相互向上を目指す会です。トイレメーカーや鉄道会社、清掃会社、設備会社、ショッピングセンター各社等が出席して年一回開催しており、昨年は60社ほどの参加がありました。

今後もトイレに対する前向きな取り組みが幅広く業界横断的に進んでいくよう、ラスカとしてもさまざまな取り組みを行っていこうと考えています。

―――『ラスカ』におけるトイレを踏まえた今後の展望を教えてください。
吉田氏:お客様に満足いただけるトイレを提供することは、ラスカへの満足、CSの向上に直結することと考えています。このような視点を常に持ち、造って終わりでないトイレ造りを目指し、一層魅力のある商業施設にしていきたいと思います。

―――ありがとうございました。