2010/12/1 取材:有限会社オンリーワン 代表取締役社長 西山由美氏
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駅やパーキングエリア、公共のトイレといえば臭い、きたないといったイメージが先行していたが、最近はきれいで利用しやすいトイレが増えてきた。公共トイレへの、利用者、施設提供事業者の意識の変化とトレンドの移り変わり、その裏側には何があったのだろうか?鉄道会社や清掃会社の人材育成や社員研修を中心に、数多くの企業コンサルティングを手掛けてきた有限会社オンリーワン代表取締役社長 西山由美氏に聞く。
―――まず、西山氏が代表を務める有限会社オンリーワンの現在の事業内容と、事業におけるご実績を教えてください。
西山氏:現在、オンリーワンでは、人材に関する企業コンサルティングを行っております。鉄道会社や電力会社などをはじめとして、多業種にわたり、社員、スタッフの人材育成、社員研修を手掛けています。
―――西山氏が企業コンサルティングを行う中で、公共のトイレと関わるようになったきっかけを教えてください。
西山氏:3つあります。1つ目は、JR東日本が民営化になってまだ間もないころ、サービス向上に向けて駅の診断を行いました。この中に駅構内の環境として『トイレ』という診断項目がありました。トイレは清潔か、使いやすいか、設備上壊れているところはないかなど、お客さまの視点で診断を行いました。現在、オンリーワンでとても力をいれているのがこの、『診断業務』です。診断業務とは、講師が、利用する施設やスタッフを、お客様目線で診断します。
逆に2つめは、商業施設へのコンサルタント業務を通じてのことでした。新たな商業施設を開業する際に、トイレのこだわりを目の当たりにしました。
3つめは、オンリーワンが今般特に力を注いでいる、清掃会社のスタッフに対するCS(CS:customer satisfaction 顧客満足)向上研修です。
―――これらのご経験の中で、西山氏が最初に気付かれたトイレ改善の事案について教えてください。
西山氏:先ほどの駅の診断において、女性トレイが、明るく、清潔で、使いやすいということ、そしてトイレットペーパーを置いてほしいということでした。当時はJR東日本が民営化となり間もない頃で、今では考えられないくらい基本的なことではありますが、お客さまの声としてお伝えしました。
―――当時はやはり公共のトイレというと、臭くきたないといったイメージが先行していたように感じます。当時、公共のトイレを提供していた事業者が抱えていた悩みは?
西山氏:その当時は、トイレットペーパーが盗まれる、物を破損させることが多発していました。また、利用者のマナーも悪く、紙が落ちている、ゴミをゴミ箱に捨ててないなど、トイレはつねに汚い、暗い、臭いイメージがありました。場所によっては、浮浪者や不良のたまり場となっていることもあり、使えないトイレもあったほどです。この点が、事業者としても悩まれていたのではないでしょうか。
―――現在は当時のイメージが大きく和らいできたように感じます。公共のトイレが使いやすく、またきれいになるには、どのような背景があったと思われますか。
西山氏:お客様がトイレを利用する際、不潔な場所だから汚く使うのであって、キレイなところでは『キレイに使わなくては』という心理があります。そこで事業者は、明るく清潔で使えるトイレづくりを目指そうという発想の転換をされたのでしょう。以前、事業者には『トイレットペーパーが盗まれるから、トイレットペーパーは常備しない』という考えがあったようです。ただこれは、ごく一部の方の行動を主として考えている結果であり、多くの大切なお客さまを前提に考えた場合には、そぐわない考え方です。企業のCSに対する意識変革の努力が、利用者自身のマナー向上にも波及したのだと考えます。
そして、もう一つの大きな要因として、女性の社会進出が挙げられます。女性が社会に進出したことにより、お客さまの声を女性社員が代弁するようになり、様々なCS向上に向けての取り組みが積極的に行われ、成果があらわれています。
―――当時と比べた現在の事業者、利用者の意識、また『公共のトイレ』のトレンドについて教えてください。
西山氏:トイレは、単に用をたすところではなく、コミュニケーションの場になってきています。トイレがお客さまを呼び込む場となるのです。キレイで使いやすいトイレのある施設に足を向けるのがお客さまの心理です。トイレが好きだとその施設にもまたリピータとして足を運ぶことになります。
以前は、座りたくないほどの不潔な便座が多かったですが、今は清潔な洋式便座が増えています。また、洗面と化粧スペースが分離され、ゆっくりとお化粧ができるトイレ空間や、アロマを取り入れた癒し効果、お子さまへの配慮など色々な工夫を施し、商業施設への集客効果を上げています。
いつのまにか、特に女性にとってトイレは、ついつい話が弾むコミュケーションの場になってきていると思います。
―――このように大きく変化してきた公共のトイレですが、トイレを提供する事業者が考える今後の展望は、どのようになると思いますか。
西山氏:1つ目は、トイレの無料と有料の差別化が挙げられるでしょう。有料化に伴い、某駅ではパウダールームに力を入れ、ドライヤーも完備しています。トイレはくつろぎの空間であり、わたしづくりの事前準備の空間として多種多様な役割が求められています。一方でお子さまや高齢者、身体の不自由な方にも優しい、バリアフリーに配慮した使いやすい空間を今後も追求すべきです。
2つ目として、清掃スタッフのCSに対する意識向上も求められます。清掃スタッフは、単なる掃除をする人ではなく、常駐しお客さまのお役に立つ案内をおこなうことを業務としている清掃会社もあります。時代とともにキレイになってきたトイレに、お客さまがかかわる時間が長くなってきています。より、トイレで清掃をするスタッフがきれいな快適な空間を提供しているのです。清掃スタッフのパフォーマンス性も期待するところです。
たかが、トイレ。されど、トイレ。なくてはならない大切な空間に力を注ぐことが、事業者の高い関心につながっているのではないでしょうか。
―――ありがとうございました。