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千葉県の『ちばトイレ美化おもてなし運動』 狙いと実際

2010/12/1   取材:千葉県商工労働部観光課

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8月5日 知事記者会見(写真:千葉県提供)
8月5日の記者会見で発表する知事(写真:千葉県提供)

森田健作千葉県知事自らが8月5日の記者会見で発表しスタートしたこの取り組み。千葉県など5団体の主唱で、観光関連事業者やコンビニエンスストア、鉄道会社などの民間事業者、千葉県や県内の市町村が提供しているトイレをきれいにし、観光客のリピーター化につなげようという取り組みである。首都圏にあって、多くの観光スポットを抱える千葉県の強い意気込みを感じる取り組みでもある。

『トイレをきれいに』という取り組みとしては、デパートやコンビニエンスストアなどの商業施設のトイレがきれいになっている中で、こうした潮流を踏まえた動きともとれるものだが、千葉県という自治体が先頭に立ち、県内トイレを対象にトイレ美化を推進、啓発している点で、面白い取り組みと言えるだろう。

事実、自治体のトイレに対する取り組みは積極的ではあるものの、通常はバリアフリー施策などの『ハード面』に対する取り組みが目立ち、トイレ美化という『ソフト面』まで含めての取り組みは少ないのが現状。

県庁近くの公衆トイレに貼り付けられた美化宣言シール
県庁近くの公衆トイレに貼り付けられた美化宣言シール

では具体的に『ちばトイレ美化おもてなし運動』では、どのような取り組みを行っているのであろうか。まず、千葉県と千葉県市長会、千葉県町村会、千葉県観光協会、千葉県の観光PRなどを行う官民で組織されたちばプロモーション協議会が、千葉県内の観光関連事業者やコンビニエンスストア事業者、高速道路、鉄道事業者、市町村など、トイレを所有している機関にトイレの美化を呼びかけ、トイレ美化を推進。
取り組みに際しては、清潔さを保つための取り組みとして、清掃の頻度や仕様の検討、清掃記録の表示などを、また、おもてなしの心を表す取り組みとして、生花の設置や洋式トイレへの便座消毒液(洗浄剤)の備置きなどを呼び掛けている。さらに、トイレ利用者にきれいなトイレへの取り組みをアピールするため、『ちばトイレ美化おもてなし宣言』シールを大小各2万シート用意し参加機関に配付、取り組みを行うトイレに張り出した。

これらの取り組みにより、千葉県を訪れる観光客の獲得、増加を狙う。一般利用者からすれば、きれいなトイレを利用したいという欲求が強いわりに、きれいなトイレを利用できたという実感は湧きにくいもの。この取り組みでは、きたないトイレを利用したことにより、観光客に嫌なイメージが残らないようにしていく。

この取り組みがスタートしてから約4ヶ月、参加機関の反応は総じて前向きである。民間事業者ではすでにトイレ美化を積極的に推進している事業者も多く、今回の取り組みに対しても、トイレ美化を一層アピールできるとあって好反応。また、市町村も、特に観光地域に位置する自治体では、観光客を増やしていきたい方向性と重なり、前向きな取り組みをはじめている。

一方で、トイレの『老朽化』という課題もある。利用者の数や予算の関係上、トイレの建て替えや根本的な改修が難しいケースも多く、老朽化したトイレでは、『使用する』という最も基本的なニーズには応えられても『きれいさ』をアピールするには厳しいものがある。このような場合には、『トイレの古さ』というイメージを植え付けてしまいかねず、トイレ美化運動への参加が難しいケースもある。

香取市街歩き観光トイレ(観光地魅力アップ緊急整備事業活用 写真:千葉県提供)

香取市街歩き観光トイレ(観光地魅力アップ緊急整備事業活用 写真:千葉県提供)
観光地魅力アップ緊急整備事業が活用された香取市街歩き観光トイレ(写真:千葉県提供)

また、観光地のトイレには、『トイレの数』の問題もある。観光シーズンになると、トイレの数自体が足りていないとの声が多く寄せられる。特に女性用トイレでは、順番待ちで列をなしているというのが当たり前の光景といっていいほどである。しかし、観光地では繁忙期と閑散期の差が大きく、自治体として繁忙期の水準のみに照準を合わせトイレ整備を行うことは難しい。できる限り利用者の要望に応えるのは必要なことであるが、同時に一つのトイレに利用が集中しないよう利用を分散させることも、現実的な取り組みとして必要であろう。

ただ、民間と自治体が足並みをそろえてトイレ美化に対する取り組みをはじめたという点が、最も有意義で評価されるべき点といえよう。

千葉県ではこの取り組みに関連して、昨年度から『観光地魅力アップ緊急整備事業』という取り組みも行っている。これはトイレなどの観光基盤施設整備への補助制度である。観光地のトイレについて『トイレの数』不足の現状も踏まえ、市町村によるトイレの新設や建て替え、改修などの取り組みを支援している。

具体的に昨年度は1億35百万円の予算を計上し、10箇所のトイレの新築・建て替えと5箇所のトイレ改修などを支援した。今年度も1億5千万円の予算を計上している。自治体の施策でもあり、バリアフリー化や多目的トイレの設置、景観への配慮は勿論であるが、特筆に値する事項としては、女性のトイレ待ち解消を図るために、トイレの基数面での配慮も行われているということであり、いかにも森田知事らしい心配りといえよう。

スタートから4ヵ月の成果は、まず、民間事業者、自治体において、前向きな取り組みが行われている点。清潔なトイレは利用しやすく、利用後の気分もよいもの。今後、同様の取り組みが幅広い機関で広がっていくことが望まれる。また、現在取り組んでいる千葉県でも、今後一層の取り組みがなされることを期待したい。